リースバックで「こんなはずではなかった」という話になるとき、その原因が契約後に起きたことであるのは、実はあまり多くありません。ほとんどは契約書に書いてあったか、あるいは書いていなかったことです。つまり、契約の前に確かめられた。

ここでは起きやすい5つを挙げます。順番は、後から気づいたときの痛手が大きい順ではなく、なかなか気づきにくい順に書きます。

家賃が近隣の相場で決まると思っていた

これが最も多い行き違いです。

リースバックの家賃は、近隣の賃貸相場から決まるのではありません。買主が払った金額に対して何%の家賃収入を得るか、という計算から決まります。買取価格650万円に対して年12%の利回りを見込むなら、年78万円、月にして6.5万円。近所の似た家がいくらで貸されているかは、この計算に直接は入ってきません。

ここから、ひとつ厄介な関係が出てきます。

買取価格を上げてもらおうとすると、家賃も上げさせてください、となる傾向が強いです。片方だけを有利にすることはなかなかできません。

「なるべく高く売りたい」と「家賃は抑えたい」は、そのままでは両立しない。この記事でいちばん覚えておいていただきたいのはここです。

ただし実際には売主の事情や物件の条件によって調整されます。

元の値段で買い戻せると思っていた

買い戻せる取り決めが付く場合でも、その価格は買取価格より高くなるのが一般的です。買主の利益と、買ったときにかかった諸費用が乗るためです。

さらに見落とされやすいのは価格ではなく、そのときに「資金を用意できるかどうか」のほうです。

買い戻す権利があっても、住宅ローンが組めなければ実行できません。

5年後、10年後の自分が、いまより住宅ローンを借りやすくなっていることは普通ありません。年齢は上がり、勤続の残りは短くなります。

買い戻しを前提に考えているなら、価格と期間に加えて、その時点の資金の当てまでを、ひと続きで確かめてください。

ずっと住めると思っていた

賃貸借契約には普通借家と定期借家があり、リースバックでは定期借家が使われることがあります。定期借家は期間が来ると契約が終わります。

「再契約できます」と説明された場合、それが契約書に書かれた約束なのか、そのとき協議するという意味なのかで、まったく重みが違います。ここは分量が要るので、何年住めるのか|定期借家契約の落とし穴で別に書きました。

修繕は大家がやってくれると思っていた

賃貸人の修繕義務は民法606条1項にありますが、当事者の合意で変えられる規定です。リースバックでは特約で外す形が一般的で、その場合は入居者側で持つ範囲が広がります。給湯器が壊れた、エアコンが動かない。そういうときの費用です。

ただ、この特約は一方的に不利とも言い切れません。修繕義務を外すということは、裏を返せば大家がその家の設備に手を出さないということでもあります。元の持ち主として勝手が分かっているのだから、細かい修繕や小さなリフォームは承諾なしにやってよい、という運用を認める大家もいます。自分で決められる範囲が広がる、と考えることもできる。

どちらになるかは契約書次第です。口頭の説明ではなく、条文を見てください。

手元に残る金額の見積もりが甘かった

売却代金がそのまま入ってくると考えていて、実際の入金額との差に驚くケースです。

引かれるものは3つあります。住宅ローンの残債、売買仲介手数料、そして印紙税や抵当権抹消の費用です。

仲介手数料は2024年7月に扱いが変わりました。それまでは400万円以下の物件にだけ認められていた特例が800万円以下に拡大され、上限が30万円に消費税を加えた33万円になっています。低い価格帯の売買は、この特例の範囲で計算されることが多くなりました。買取価格650万円なら33万円です。

内訳金額
買取価格650万円
住宅ローンの残債−300万円
売買仲介手数料−33万円
印紙税・抵当権抹消など−7万円
手元に残る310万円

残債が買取価格に近いと、この計算はさらに厳しくなります。残債が620万円を超えたあたりから、抵当権は外せるのに費用を賄えず、決済の場で自分の財布から出す形になります。「売れば整理がつく」と思っていた人にとっては、ここがいちばん重いです。

抵当権を外せるかどうかと、費用を払えるかどうかは、別の問題です。

買う側から見ると、この5つはどう見えるか

ここから先は、買う側の話です。私は大家として築古の戸建を買い、そのまま貸しています。リースバックでは買主の立場に立つので、上の5つが逆側からどう見えているかを書きます。

期待額と査定額は、だいたい離れている

固定資産税の評価額を見て「800万から900万にはなるだろう」と考えておられた売主さんがいました。落ち着いたのは600万円ほどです。

差がついた理由は2つありました。ひとつは、その家の固定資産税が比較的高かったこと。もうひとつは、その方が払っていける家賃が、周りの賃貸相場より安かったことです。

払える家賃に上限があると、そこから逆算される買取価格にも上限ができます。1で書いた式が、そのまま出てきた例です。固定資産税が高ければ、持ち続ける側の負担も増えるので、その分も価格に響きます。

なお、固定資産税の評価額は、市場でその値段で売れると全く限りません。ここは取り違えられやすいところです。

残債を下回ることもある

コロナで事業が苦しくなり、住宅ローンの支払いも厳しくなって、家を手放すことになった方がいました。ローンを返してもいくらかは手元に残る金額で売れるだろう、と考えておられた。ところが近隣の相場から出した査定額は、住宅ローンの残債にも届きませんでした。

このときは金融機関と話をして、残債を減らしてもらったうえで話がまとまりました。現金は手元に残りません。それでも毎月のローンの支払いが無くなって、終わってみれば「それでもほっとした」と言われていました。

ただ、こうした交渉ができるかどうかは個別の事情によります。当サイトではこの領域を扱っておらず、助言もできません。 売っても完済できない見込みであれば、金融機関の同意が要る話になりますので、専門家や不動産会社等にご相談ください。

「もう少し高く」と言われたときに見ているもの

価格の相談を受けることはあります。そのとき何を見ているかを、正直に並べます。

まず建物です。築年数も見ますが、それ以上に丁寧に使われてきたかどうかを見ます。同じ築35年でも、手入れの跡がある家とそうでない家では、あとの手間がまるで違います。

次に、もしその方が将来退去されたとして、そのとき近隣の相場でいくらの家賃が付くか。リースバックは売買で終わらず、そのあと何年も貸し続けます。次の入居者で回るかどうかが、価格の裏付けになります。車が複数台置ける広さかどうかも見ます。この地域ではそれも大きいです。

それから、買取価格と一緒に家賃も上げられるかどうか。実際に、価格を上げるかわりに家賃を5,000円上げてまとまったことがあります。 1で「片方だけを有利にすることはなかなかできない」と書いたのは、こういう形で表に出てきます。価格だけを動かすことはできませんが、両方を動かすなら余地はあります。

最後に、書くかどうか迷いましたが、売主さんが誠実な方かどうかも見ています。これは値踏みのつもりではありません。リースバックは売って終わりではなく、そのあと大家と借主として何年も続きます。長く付き合う相手だから、という理由です。

条件で断ることは、あまりない

意外に思われるかもしれませんが、物件の条件を理由に断ったことはほとんどありません。

市街化調整区域でも問題ありません。ただし農地が絡むと売買に制限が出るので、すんなり進まないことはあります。それでも農家の登録がある買主もいますから、諦める前に不動産会社に相談してみてください。

再建築不可の土地は、正直なところ厳しいです。買うとしてもかなり安い金額にならざるを得ません。ただ、買い戻す確約があったり、そこで一生住み続けるという前提であれば、別の組み方が無いわけではありません。何年か家賃を払って住んでいただいたうえで、土地と建物をそのままお渡しするような形です(税金や司法書士費用などは先方のご負担になります)。税金の扱いも絡みますので、こうした形が使えるかどうかも含めて、まずは不動産会社にご相談ください。

唯一、条件ではなく人で断ったことがあります。売主さんの態度が横柄だった案件です。あとあとトラブルになる可能性が高いと感じたので話はお受けしませんでした。

聞いていた話と現況が違う、はあまり起きない

説明と現況が大きく食い違っていた、という経験はほとんどありません。不動産会社が物件をよく見て、売主さんとよく話すからだと思います。

もちろん、見えない部分のリスクはありますがそれを事前に全部つかむのは無理です。結局のところ、売主さんが誠実で嘘をついていないかどうかを見極めるくらいしかない。ひとつ上で「誠実な方かどうかを見ている」と書いたのは、そういう意味でもあります。

上の5つは、金額を当てはめれば自分の条件で確かめられます。売れそうな金額と住宅ローンの残りを入れるだけで、成立するかどうかと毎月の支払いが出ます。氏名も電話番号も入力しません。

売却後のシミュレーションをする

計算結果は概算です。実際の買取価格と家賃は、建物の状態と土地の条件を見ないと出ません。査定は、提携している株式会社アール(宅地建物取引業者 岐阜県知事(4)第4590号)にご相談いただけます。